全国的に郊外型大型商業施設の開業とともに、
従来からあった中心市街地の空洞化が加速している。
郊外型大型商業施設は、核家族化による車の移動の増加に寄って、
従来からの「距離による商圏」を越え、移動時間が長くとも集客力がそれを補い、
滞在時間も比較的長い「時間消費型」商業施設へと拡大、変貌してきている。
そのような大型商業施設への客足の移動は、必ずとも商業施設に目的があるとは限らず、
どちらかというと「なんとなくぶらぶらする」「買い物ついでに・・・」という、
明確な目的を持って「滞在する」のではなく、
強い目的性なく「滞留する」ことが出来るように設えられているからと言える。
では、現在の中心市街地はどうか。
現在の中心市街地は、過去の土地価格高騰により土地そのものが細分化され、
極限まで高度利用が進んだ結果、人が行き交う「みち」との関係が
点的な接点まで分化され、またその「みち」さえもが効率化と言う名の下に
ヒトから車へと主人を変え、「道路」という、
まるで止まる事を許されないベルトコンベアのような「移動路」に変わってしまった。
線的な道路に接している点的なつながりしか持たない建物の集積になってしまった中心市街地に、上記のような目的性の薄い「滞留」というコトが出来にくくなってしまっている。
そもそも、滞留するために必要な要素=「点的」な接点ではなく「面的」な接点、
すなわち「たまり」が現在の市街地にはほとんど無く、
「移動する」事を目的とされた歩道に各建物が接しているだけである。
これでは隣接する建物相互も、歩道を介してしか接点を持つ事が出来ず、
街全体が点的な接点、道路を介してしか接点を持たない建物の集積地と認識されてしまう。滞留に必要なたまりがあれば、ヒトは歩く速度を自分で決め、そぞろ歩き、ぶらぶら歩く=ランブリング※できるようになる。
※ランブリング(Rambling)
ランブリングには、「ぶらぶら歩き」とか「とりとめもなく話すこと」の意味がある。
歩くことが主目的でなく、ある趣味をするために歩くとか、
あることをしながら歩くということである。日本ではまだ馴染みのない言葉であるが、
多くの人がランブリングを楽しんでいるという現状がある。
歩く速度は、楽に会話ができる程度のゆっくりとした歩きである。
ランブリンクする人を、ランブラー(Rambler)という。(出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』)
そこで、このプロジェクトを考えるにあたり、
上記街なみのあり方といったところからアプローチし、このプロジェクト起点を「Rambling Street Project」と位置づけた。
当該敷地は交差点に面し、他の1面接道敷地と違い、
ヒト、モノが交差するある意味での「たまり」に面している。
また2面接道している事から、敷地内空地を通過する動線もあり、
空地部分を通常のたまり以上に生かす事が出来る。
交差点部分を「街角たまりゾーン」、
敷地内空地部分を「敷地内たまりゾーン」と位置づけ、
「街角たまりゾーン」と「敷地内たまりゾーン」の応答のために
敷地角にシンボルツリーを配置し、シンボルツリーとたまりゾーンを
包み込むように3階部分をキャンティレバーで持ちだし、
たまりゾーンを単なる空地ではなく、建物へのアプローチを整理するとともに、
たまりゾーンを明快に表現する事を狙った。
内部構成は、1階は敷地内たまりゾーンと共用部分で多くの面積を割く必要があるため、地下と外部から見える吹き抜けによって一体に使える空間とし、
1階レンタブル面積を出来るだけ確保した。
また、2階はピロティー部分でたまりゾーンに面しており、
視認性が1階同等となるため、あえて1階+2階のテナントとはせず、
2階単独テナントとした。
このため、2階へのアプローチはエレベーターと階段の両方を利用できる計画としている。3階〜5階は飲食店の入居を想定しており、各階で単独利用できるよう計画した。
外部仕上は街角のランドマークとなる事を狙い、
3〜5階のキャンティレバー部分はALC+杉無垢板不燃加工品を使用し、
シンボルツリーと連動した仕上としている。
可能であれば天竜産材を不燃加工し利用したいと考えている。