このエントリーでは、
④「施工不良」と「手抜き」と仕組まれた「詐欺」の狭間。
⑤共同住宅の「質」への関心のなさ。
について、考えていきたいと思います。
問題はどこにあるのか?
サブリースアパートの愛の欠如について、前のエントリーでもお話したしましたが、実はこの「愛の欠如」が、
建物そのものの質にも直結するのです。
今回のレオパレスの、
①界壁が小屋裏まで届いていなかった問題、
②その界壁に仕込むべき断熱材が、基準法に定められているものではなかった問題、
③外壁の断熱材が、大臣評定通りの断熱材が使われていなかった、
という3つの問題があります。
そもそも「界壁」とは何ぞやと言うところですが、アパートなどの共同住宅は、
隣同士に別々の世帯が住むため、騒音がお隣に響くことを防いだり、
火事が起きたときにお隣に延焼することを防ぐ(木造住宅では遅れさせる)ために、
設置が義務付けられているものです。
(令第114条第1項)
長屋又は共同住宅の各戸の界壁は、準耐火構造とし、小屋裏又は天井裏に達せしめなければならない。
建築基準法施行令第114条第1項に、上記のように書かれています。
この目的は、お隣へ直接延焼が及ぶことを防ぐための目的であり、
この壁が小屋裏までしっかりと届いていないと、小屋裏や天井裏から簡単にお隣に延焼してしまいます。
その壁も準耐火構造という、45分間破損等しないという耐火性の高い壁が指定されています。(問題その①)
(長屋又は共同住宅の各戸の界壁)
第三十条 長屋又は共同住宅の各戸の界壁は、小屋裏又は天井裏に達するものとするほか、
その構造を遮音性能(隣接する住戸からの日常生活に伴い生ずる音を
衛生上支障がないように低減するために界壁に必要とされる性能をいう。)
に関して政令で定める技術的基準に適合するもので、
国土交通大臣が定めた構造方法を用いるもの又は国土交通大臣の認定を受けたものとしなければならない。
また、建築基準法第三十条にも、界壁は小屋裏または天井裏まで伸ばした上で、
お隣に音が響かないように、必要な遮音性能を求められています。
昭和45年 建設省告示第1827号
遮音性能を有する長屋又は共同住宅の界壁の構造方法を定める件
建築基準法(昭和二十五年法律第二百一号)第三十条の規定に基づき、
遮音性能を有する長屋又は共同住宅の界壁の構造方法を次のように定める。
昭和45年告示というとても古い法律ですが、相当昔から遮音性能については法的に意識され、
建築界隈でも当然の仕様として共有認識ができています。
この告示の先には細かな仕様が記されていますが、木造で主に用いられるのは下記の仕様です。
二 次のイ及びロに該当するもの
イ 界壁の厚さ(仕上材料の厚さを含まないものとする。)が十センチメートル以上であり、
その内部に厚さが二・五センチメートル以上のグラスウール(かさ比重が〇・〇二以上のものに限る。)
又はロックウール(かさ比重が〇・〇四以上のものに限る。)を張つたもの
ロ 界壁の両面を次の(1)又は(2)のいずれかに該当する仕上材料で覆つたもの
(1) 厚さが一・二センチメートル以上の石膏ボード、
厚さが二・五センチメートル以上の岩綿保温板
又は厚さが一・八センチメートル以上の木毛セメント板の上に
厚さが〇・〇九センチメートル以上の亜鉛めつき鋼板、
厚さが〇・四センチメートル以上の石綿スレート
又は厚さが〇・八センチメートル以上の石綿パーライト板を張つたもの
(2) 厚さが〇・六センチメートル以上の石綿スレート、
厚さが〇・八センチメートル以上の石綿パーライト板
又は厚さが一・二センチメートル以上の石膏ボードを二枚以上張つたもの
この条文は、「及び」という言葉が使われており、「イ」+「ロ」の両方を満たす必要があります。
さらに一番初めの令第114条第1項を満たすために、おおよそ石膏ボード12.5ミリ二重張りを両面とし、
内部にグラスウールかロックウールを充填するのが通常のやり方かと思います。
ここで充填する材料が「グラスウール」「ロックウール」に限られているのは、
遮音性が高いからではなく、不燃材料として認められている材料で、
遮音性がある一般的なものが「グラスウール」か「ロックウール」である、
ということです。この程度は、建築士であれば常識として持っている知識だと思います。
これぐらいガチガチに固まっている界壁の仕様を、
自社の都合で変えること自体が建築業界的にもナンセンスで、
「施工合理化するために小屋裏まで伸ばすのやめました」
「内部のグラスウールを発泡ウレタンに置き換えるました」
など、よほど建築基準法を読んでいない建築士が設計しているとしか思えません。(問題その②)
また、外壁の断熱材も断熱性能だけではなく、防火性も兼ね備えていなければなりません。
レオパレスが使った材料の大臣認定仕様を見てみると、
・QF060BE-9225 https://www.jtc.or.jp/qa/9225.pdf(1時間準耐火)
・QF045BE-9226 https://www.jtc.or.jp/qa/9226.pdf(45分準耐火)
・PC030BE-9202 https://www.jtc.or.jp/qa/9202.pdf(鉄骨下地・防火構造)
それぞれ認定チェックリストを見ると、断熱材はやはりグラスウールかロックウールを指定されています。
そもそもこの3つの認定は「NPO 住宅外装テクニカルセンター」という、
外装材メーカーが集まった組織で認定を所持しており、
その前身は「通則的認定」という、各メーカーが共通の仕様の元で製造販売していた認定番号で、
複数のメーカーで共通して利用しています。
つまり、どこのメーカーのものを利用しても、壁の内部に使うべき断熱材は
「グラスウール」か「ロックウール」しかないのです。
さて、これって「施工不良」?
ちょっと調べればこれぐらい簡単に結論が出ることですし、
日常的に建築に触れている関係者であればほぼ常識、といっていい範疇です。
これが「施工不良」という表現で語られるのが、ちょっと不可解なのです。
施工不良とは、
「図面どおりに施工したつもりが、その通りになっていなかった」
ということであって、図面そのものが確認申請と違っていたのであれば、それは設計が間違っていた「設計瑕疵」か、
設計図を無視して現場で施工した「手抜き」(施工瑕疵)としか言いようがありません。
更には、このタイプの建築会社では標準仕様というものを定めて、
工事現場での施工合理化を図るとともに、購買部門で集中的に仕入れをすることで
資材価格を下げるということをしているはずです。
ということは、工事現場や現場担当者が独自に行えることではなく、
購買部門や設計部門が横断的に行わないと、このような仕様の建物が建つはずがないのです。
さらには、建築士法には
第十八条
建築士は、設計を行う場合においては、設計に係る建築物が法令又は条例の定める建築物に関する基準に適合するようにしなければならない。
2 略
3 建築士は、工事監理を行う場合において、工事が設計図書のとおりに実施されていないと認めるときは、直ちに、工事施工者に対して、その旨を指摘し、当該工事を設計図書のとおりに実施するよう求め、当該工事施工者がこれに従わないときは、その旨を建築主に報告しなければならない。
とあり、設計を行った建築士(がいるはず)にとって、法令に則ることは義務であり、
工事監理において、それが出来ていなかった場合は建設会社に指導し、建築主にも報告する義務を負います。
設計と施工が別人格で行われる場合は工事監理が正常に働きますが、
「設計施工」といって、同じ人格(会社)で行われている場合、なかなか工事監理が正常に働かない場合があります。
同じ会社の社員が、会社がやっている違法なことを、業務として明らかにすることは難しいと思います。
ある意味、「組織ぐるみ」でやらないと出来ない問題なのです。
そういう面では、「施工不良」という間違いでもなく、「設計瑕疵」という計画上のことのでもなく、
組織ぐるみで行われていた「詐欺行為」に近いのではないか、と感じています。
やはり、ここにも愛はないのか。
サブリース建築業者の内部統制までは計り知れませんが、
確認申請に提出している図面と、現場に回っている・発注に用いられる図面が違うこと、
そのことを正常に指摘できる組織体になっていないこと、
それが1996年~2001年と、18年以上も前の物件で発覚したこととなると、
これは詐欺に近いとしか言いようがありません。
なぜこのようなことが起こるか考えてみると、
やはり前のエントリーでも述べた「愛のなさ」が土壌ではないかと思うのです。
このような流れの共同住宅では、だれも借主である「住み手の暮らしの安全性」について、
考えることなく計画され、建築され、運用されていることが、悲しく思えます。
興味があるのは運用益であり、受注高であり、相続税対策であり、貸出高であり・・・
賃貸住宅とはいえ、そこに住まう人の快適性や安全性は二の次となり、
どんどん同じタイプの住宅が大量生産され、空家率に拍車がかかる・・・。
新築時に熟考されたものではないので、建築ストックとしても甚だ頼りないものがどんどん生産されていく。
「愛なき賃貸住宅」に覆い尽くされる日本の明日に、どのような景色が見えるのでしょうか?