先日、東京建築士会青年委員会主催の「求道会館」の見学会に行ってきました。
求道会館は大正14年に完成した、真宗大谷派の僧侶近角常観氏が開いた教会で、
西洋式の教会建築を学んだ武田五一による設計の建物です。
長く放置されていた求道学舎と共に復原され、現在は一般に公開されている建物です。
外観はヨーロッパの左右対称の様式を取り入れたものですが、
実はこの外観、竣工時はこのような外観だったのですが、
竣工後すぐに関東大震災に襲われ、修復時にはもっとシンプルな外観に改変されていたとのことです。
復原にあたり近角氏が資料をあらゆるところから集め、耐震補強を兼ねて外観を竣工時に戻したとのことでした。
私も現在、某文化財の保存活用に携わっているので、
当初資料の収集や、現在の法基準に添いつつ、文化財としてのルールの中での復原、再現に大変さに、
立ちくらみを覚えました(笑)
個人でここまでやるのは、技術的にも資金的にも、本当に大変だったと思います。
内部は吹き抜けになっており、教会建築をそのまま踏襲しているような構成になっています。
当初は外壁面はレンガ積みだったとのことですが、関東大震災の際に亀裂が入ってしまったため、
コンクリート造に改変しているとのことでした。
さらに復原の際に、そのコンクリートも一旦撤去し、耐震性のあるバットレス付きコンクリート壁を再度施工したとのこと。
このトラス屋根をそのままに、壁をやり直すのは相当大変だっただろうなぁと。
トラスも竣工当時入り始めた2×10材をガセットプレートで補強した構造で、
和小屋が主流の当時、相当先進的な建物であったと想像できます。
本堂裏の懺悔室(真宗でもそういうんでしょうか?)で解説していただいている近角さん。(中心の方)
資料に残っている近角常観氏と武田五一氏の設計、施工段階でのやりとりのエピソードなど、
時代背景や建物への思いなどがよく分かるお話をいただきました。
オリジナルの照明も、現存していたものから型をとり、復原したとのことでした。
一つ一つにきちんと意匠が施されていて、本当に当時の建物は抜かりがないなぁと、
感動しきりでした。
ハンマービーム形式のトラスが美しいですね。
今では構造解析がPCなどで簡単にできる時代ですが、当時このような高度なトラスをしっかり設計できたって、
すごいことですね。
中には電話室があったり(今は音響機材が設置されていました)
窓からは求道学舎(定期借地権方式でリノベーションされた、日本最古の共同住宅)が見えたりと、
本郷にいるとは感じられない、豊かな空間が広がっていました。
古い建物を残すということは、得てして文化財的に持ち上げられて、
人が入ることを許さず、まるで永久凍結のような扱いをされることが多いのですが、
近現代の建物は、未だ利活用されながら残っているものも多く、
そのような建物を、いかに残しながら時代の要請に合うように改変するかの手法が、
現時点では全くと言っていいほど整備されていません。
手法が確立されていないということは、整備するためのコストがはっきり算定できず、
「走りながら考える」ということになり結果、経済効率から考えると、
解体し新しい建物を建てたほうが合うという結論に至がちです。
しかし、いつまでもスクラップアンドビルドを続けられるほど、日本の国富が潤沢とも言えず、
人が暮らす街を考えても、激変が繰り返されるのも、文化として如何なものかとも思います。
時代の要請に応えなが古い建物を残し、次世代へ繋いでいく。
そういう仕事が、設計には求められているのかもしれません。